❐一般均衡理論は無理がある
一般均衡理論をかなりざっくりいうと、需要と供給で価格が決まるみたいなやつです。
100年以上前にワルラスという人が提唱し、今日の経済学にも定着している理論です。
一見、正しそうな理論ですが、それに到るまでの過程に突っ込みどころ満載です。
右下がりの需要曲線Dと右上がりの供給曲線Sが交わるところで市場の均衡が決まる
ということですが、それを導く過程に問題があります。
なぜなら以下のような仮定となっているからです。
①ビール1杯と焼き鳥2本の喜びと、ビール半分と焼き鳥4本の喜びは同じ
②金さえあればいくらでも満足を増やせる
③生産量が増えるほどコストが高くなる
④生産量が増えるほど生産効率は悪くなる
どうでしょうか?違和感はありますか?
もし違和感が無ければあなたもミクロ経済学の超大御所ワルラスです。
少なくとも③④に関しては前回に指摘したことでおかしさ満点です。
ただしいずれも100%間違えているというつもりはありません。
しかし実体経済との乖離がどうしても無視できないのです。
①②が正しい場合、需要曲線Dは右下がりとなります。つまり
価格が下がるほど需要が増える
③④が正しい場合、供給曲線Sは右上がりとなります。
価格が上がるほど供給が増える
ワルサスは言います。ある価格において、需要超過であれば価格は上がっていく
ある価格において、供給超過であれば価格は下がっていく。
確かにコロナウイルス騒ぎの中でどれだけマスクが高騰したかを考えれば
一理あるように思ってしまいます。
しかし需要超過なのであれば、供給業者は時間を掛けて供給を増やします。
そしていずれは価格は元に戻っていきます。(実際そうですよね?)
つまり需給バランスが価格を決めているのではなく需要が価格を決めているのです。
ワルラスや主流派の経済学の理論で欺瞞に思うのは、次の3点だと思います。
・わけのわからない都合の良い仮定
・誰もが寸分の違いなく完全に行動する経済合理性
・時間的感覚(まるでタイムラグがないかのように扱う)
これらを訂正するとしたらこうです。
・実体経済に近い形での仮定
・個々人が持っている情報の中で行動
・タイムラグが制約となり得る
同じく新古典派経済学者であるマーシャルは、ワルサスとよく比較されますが、
マーシャルも同じように需要が価格を決めると言っています。
マーシャル関連の論文を読むと、
・収穫逓増の産業は有り得える、また完全競争社会と共存し得る
・人々は家族愛などの感情により経済合理性に欠けることもある
・短期、中期、長期の目線で経済を捉えることが必要だ
といった点を指摘しています。つまり100年前から私と似たようなことを
指摘している人は当然いたわけです。
彼は貧困街の状況や不景気の世をよく観察していました。
実体経済に則して考えていたことは、新古典派経済学派でありながら
マーシャルは少し異端な存在だったといえます。
❒市場均衡のグラフ
変な仮定を積み重ねたポピュラーなモデル
需要曲線Dと供給曲線Sの交差点で価格と生産量が決まる
需要曲線Dは人々の好みなどに影響されるので色々な形になり得るが
多くは右下がり線になると思われる
ただし供給曲線S(限界費用に影響)は前回指摘通り右上がりにはならず
多くはこうなるはずである
ワルラスによると均衡価格より市場価格Pが安い場合、価格を調整し
需給量をバランスさせる
品薄商法、プレミアムチケットなどあえて『供給能力』を抑えるか
特許、参入障壁などによって『新規参入』出来なくするか、
そもそも『供給能力』が増やせないインフレの国などであれば、
成り立つこともあるだろう。
日本のようなデフレ(供給能力が有り余っている)の国であれば
コロナ・マスクの現象のように↓のようになる
デフレの日本が特例だと言いたいのではなく、世の中の豊かに暮らしたいという
大きな要望に応え、人類が生産性を高め産業革新を行ってきたサイクルそのもの
が現実世界で起ってきたことなのである。
一方少し現実論的なマーシャルによると需要が価格を決めるため、
逆に供給過多の場合、
という風に価格ではなく、需給量が調整されていきます。
さて、ここで現実供給線モデルにおいてワルラスとマーシャルをあてはめます。
まずマーシャル、
一般的な市場均衡モデル同様の結果になります。
これは供給過多の場合も同じように均衡します。(供給量を減らす)
次にワルラス、
需要過多が価格を上昇させる為、永久に均衡点に達することなく
グラフがバグることになります。
均衡点より価格が安い供給過多の場合も同様にバグります。
(ワルラス的に不安定などと呼びます)
❒考察2
市場均衡理論について
・右上がりの供給曲線Sは現実世界と異なる
・需給により価格が調整されることは限定的な話である
・作れば作るほど売れる世界を想定している(需要∞)
・貨幣の存在意義がないという帰結になることを認めている
セイの法則ですやん、と思いきやワルラスはセイの後継者の一人です。
セイはケインズに否定されましたが、ワルラスも自身の理論から
『貨幣』に存在意義はないという結論になってしまうこととか、
なんだが色々残念ですね…
突っ込みどころ満載の経済学① -無限に高くなるコスト- - 天動説の経済学
突っ込みどころ満載の経済学③ -政府の関与を嫌う理由- - 天動説の経済学
なぜ経済学者がMMT(現代貨幣理論)に反対するのか① - 天動説の経済学
なぜ経済学者がMMT(現代貨幣理論)に反対するのか② - 天動説の経済学